未知なる世界を切り拓くために
浮体式洋上ウィンドファームの実現をめざして
- 北小路 結花(きたこうじ ゆか)
- ジャパン マリンユナイテッド株式会社 エンジ・ライフサイクル事業本部
エンジニアリングビジネス部 海洋グループ 主査
風力発電を普及させるには浮体式の技術開発が不可欠
福島県いわき沖のウィンドファームが実現すれば世界初
今は新エネルギー開発の仕事をしていて、海洋温度差発電、メタンハイドレート、風力発電に関わっています。
2年前の東日本大震災以後、当社が研究を続けてきた領域が脚光を浴びるようになりました。今は「福島復興 浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」が、各方面から注目されています。これは経済産業省の委託事業で、福島県いわき市の沖合20~40kmの海域に、浮体式の洋上風力発電装置を設置するというものです。洋上にウィンドファーム(風力発電所)が完成すれば世界初となるもので、この事業に当社もコンソーシアムメンバー※1として参加しています。
メンバー構成
統括社として商社が全体を取りまとめ、その下に研究サイドの東京大学が入り、重工、電機、造船、建設、コンサルタントも加わる、全部で11の組織から構成されています。
社内にはこの事業に携わる、通称“福島プロジェクト”と呼ばれるチームがあり、アドバンストスパー浮体※2、浮体サブステーション※3の研究開発を担当しています。私は福島プロジェクトのチームでアシスタント・プロジェクト・マネージャーを務めつつ、技術者としては風車の係留の検討などに取り組んでいます
洋上で行うことのメリット
日本各地の陸上に風力発電装置が立っていますよね。大型風車の場合、プロペラが動くスピードは、新幹線が通過していくのと同じくらいとされています。当然、騒音や低周波の発生源になってしまうので、狭く起伏が多い日本で大型風車をたくさん造るのは現実的に難しいです。その点、洋上は風況を乱す構造物がなく、民家などもないので騒音・低周波被害の心配も不要で、それらが洋上の優位性のひとつとなります。また、同じ地域における風力は、陸上よりも洋上の方が10%ほど強いことが知られており、発電量は風速の3乗倍大きくなることから、発電効率の30%向上が期待できることもその理由です。
通常の着床式ではなく、浮体式というところが特徴
ヨーロッパは、洋上風力発電の技術が20年以上前から確立されています。遠浅の海が広がっているので、海底に設置が容易な着床式が発展してきました。しかし日本の海域は遠浅でなく、急に深くなるような特徴があります。浮体式と着床式の選択のわかれ目はコスト的に水深50〜60mとされ、日本の場合、水深50m以下の海域は着床式の適地ではないという判断から、浮体式を採用することになります。日本の土地、環境、コスト面を考えると、洋上での浮体式が有効ですし、風力発電を普及させるには浮体式の技術開発が不可欠だと思っています。今回のいわき沖の場合は水深100m以深に浮体を設置する計画で、巨大な風車を乗せた浮体が流されないよう、海底に設置したアンカーと浮体を、チェーンでつなぎ、このたるみで浮体の動きを吸収するようにして係留します。
ちなみに着床式の設置は建築基準法が適用されます。一方の浮体式は海洋構造物であり、津波や高潮、台風などの環境外圧に対しては、日本海事協会の風力発電設備の設置に関するガイドラインに沿い、このルールを満たすような係留計算、強度計算をして設計を行っています。
プロジェクトの進捗
現在は第1期(2011~2013年)の段階で、2MW(メガワット)のダウンウィンド型浮体式洋上風力発電設備1基を建造中で、2013年7月に洋上に浮かぶ計画です。世界初となる25MVA(メガボルトアンペア)の浮体式洋上サブステーションと海底ケーブルも設置して実証実験をおこない、その後は3基、16MWに増設される計画です。将来的には100基という大規模な単位で風車を建造して洋上ウィンドファームを目指します。
世界に目を向けると浮体式洋上風力発電は近年、ノルウェーやポルトガルで実証実験がスタートしていますが、ウィンドファームという規模で稼動している実例はまだありません。そのため今回の取り組みが実現すれば世界初となり、福島復興のためにも、大きな力を発揮するものと思います。
私たち研究者は海洋に構造物を造る際、漁礁効果があって構造物の周りに魚が寄ってくると考えています。いわき沖は水揚げが多い良好な海域ですから、環境への影響に配慮し、地元や漁業関係の皆さんとの間に十分な理解を形成しながら、今回のプロジェクトのテーマのひとつである“漁業との共存”を実現したいと考えています。
「福島プロジェクト」チームの精鋭メンバーたち
再生可能エネルギーの安定供給を目指し全力で走る
吉本 私は「計画」担当で、浮体の形を決めたりしています。強風や高波にあおられても転倒しない、動揺しない性能を満たす浮体の型はどうあるべきか。浮体は、どこに何を入れれば成り立つのか。そうしたことを考えつつ、全体的な計画を進めています。世界初の事業はチャレンジングの連続ですが、最前線に立って仕事をすることに、とても誇りを感じています。
藤谷 私は電気の担当をしています。陸上へ送電する仕組みとして、風車が22KV(キロボルト)で発電したものを浮体サブステーションへ送り、さらにそれを66KVに変換して海底ケーブルで陸上へ送ります。本プロジェクトでは、いわき沖の航路に、高さ100m以上の風車が出現しますので、船舶の安全航行のためにAIS(船舶自動識別装置)により情報を発信する必要があります。航行障害や航路標識といった関係も電気担当が取りまとめているんですよ。電気の仕事は守備範囲が広いため、メンバーと一緒に協議をしながら、電気以外のことも勉強をしながら仕事を進めることがとても重要です。
田島 私は「構造」担当です。自動車でいうとフレームにあたる部分ですね。船体の強度の検討が主で、今後20年間いわき沖で発電を続けるのに必要な構造強度を確保することが仕事です。洋上ウィンドファームが完成すれば世界初となり、前例がないことに取り組んでいる点が1番面白いです。
武田 私も構造担当です。プロジェクトに加わって2カ月なので、洋上風力発電の仕組みを学んでいる最中なのですが、計画や電気の皆さんと協力しながら、壊れない、パーフェクトな浮体の構造にしていくことにやりがいを感じています。
田島 洋上風力発電が成り立てば、他国からエネルギー源を輸入することなく、日本で再生可能エネルギーが安定供給できるわけですから、何とか実用化にこぎつけたいと思いますね。
吉本 エネルギー確保の問題は今、国益を考えるとおそらく1番の至上命題になってきていると思います。その意味でエネルギー開発はスケールが大きく、使命感のもてる仕事だと思います。
福島プロジェクトが取り組んでいる浮体式の洋上風力発電は、国内の電力需要を1割、2割確保しよう、というものではなく、エネルギーのベストミックスのひとつである、という位置付けの事業です。代替エネルギーのひとつの選択肢として、これからの日本で必ず生きてくると私は思っています。
北小路 実は今「福島プロジェクト」チームは非常に忙しく、突っ走っている、夢中になって没頭している、というのが実際のところです。私の仕事のあり方もものすごいスピードを要求されるようになり、ちょっと大変になりましたね。家の掃除をする時間もない状況です(笑)。ただ、大きな事業の一端を担っている、というやりがいは強く実感しています。以前、コンソーシアムのメンバーである東京大学が展示したウィンドファームの全体模型を見たとき、今、目の前にある仕事を積み重ねれば、世界初のウィンドファームができあがっていく、実現できるまで絶対に頑張ろう!という強い気持ちになりました。
- ※1 コンソーシアムメンバー:丸紅、東京大学、三菱商事、三菱重工業、ジャパン マリンユナイテッド、三井造船、新日鐵住金、日立製作所、古河電気工業、清水建設、みずほ情報総研
- ※2 アドバンストスパー浮体:ジャパン マリンユナイテッドが開発した低動揺浮体
- ※3 浮体サブステーション:浮体式洋上変電所(世界初の建造)
2013.04.01