「鉄骨構造」や「船体・浮体構造」の設計を手がける

エンジニアリングという業界

村松 孝
村松 孝(むらまつ たかし)
株式会社サンユウシビルエンジニアリング エンジニアリング事業部 取締役事業部長

サブコントラクターというポジションに立ち
地上から海洋までのインフラを支える

皆さんがご存じの大手ゼネコンは総合建設業であり、建造物の設計・現場管理・施工までを手がけ、完成した建物を施主へ引き渡すという一連の仕事をしています。当社はそうした業態とは異なり、自社の製作現場を一切もたず、「構造設計」や「構造解析」の仕事に特化・集中しているのが特徴です。当社のクライアントはゼネコン各社のほか、重工メーカー、エンジニアリング会社、コンサルタント会社となり、その数は300社以上に及びます。当社はこれらのクライアントから業務を請け負う、いわゆるサブコントラクターというポジションに立って、海洋・港湾・陸上土木、エネルギープラント施設・一般建築物、船舶・車両・産業機械など、非常に幅広い領域の設計と解析をおこない、インフラを支えているのです。

現在、当社には約120人の社員がいますが、サブコンとしては業界内ではおそらくトップクラスの事業規模といえるでしょう。ちなみに、建築分野で形やデザインを決める「計画」・「意匠」の仕事はほとんどやっておりません。また前述のとおり施工現場の業務がなく、営業専任の社員もおりません。つまりは技術力をもった設計担当者がクライアントに会い、直接ヒアリングをしながら設計を詰めることが、当社の仕事の核になっているのです。その意味で、設計者のヒューマンスキルはとても重要なものだといえます。

これまでの経験

入社したのが30年前ですから今と状況は違いますが、私は最初の2年間は「積算」をひたすらやっていました。積算とは設計図を見て必要な建築資材を拾い出し、資材の総重量に単価を掛けて工費の見積もり金額を出すものです。私は鉄骨の骨組みが剥き出しになった設計図と向き合い、ここにはどんな構造物が取り付くのか、柱と梁の接合はボルト締めか、溶接かなどをひとつずつ学び、設計図の読み方・書き方・接合パターンを覚えていきました。またジャッキアップリグ※1やジャケット構造物※2の積算も担当することで、構造様式の理解も深まっていきました。この経験が、私の専門領域である「鉄骨構造」や「船体・浮体構造」設計の、確かな礎になっているものと思います。

建造中のセミサブリグ

建造中のセミサブリグ

海洋構造物の設計(浮体系)

入社から5年が過ぎた1990年代に、新たな養殖システムの開発を目指した「マリノフォーラム21愛媛」のプロジェクトにおいて、「TLP※3型海上ステーション」の構造設計を担当しました。当時、養殖イケスは内湾に集中していたので、漁場が過密になって環境が悪化し、生産性や品質の低下傾向が問題になっていました。この状況を健全化して、愛媛県のブリ(ハマチ)養殖の漁獲量を効率的に向上させるため、沖合に自動給餌装置付きのTLPを造ったのです。これは永久的な設置ではなく、2~3年稼働したらその後に撤去されるものでしたから、設計にはコストを抑える工夫が必要でした。TLPはデッキと4本の支柱からなる構造ですが、その接合部分は大きな部材をかませて堅牢に溶接する一般的な接合ではなく、デッキと支柱の接点が少し柔らかくなる構造仕様を選んだことで、よりコストダウンができました。
完成後にお披露のために船で沖合まで行ったのですが、自分が設計したTLPが浮かぶ姿を目の当たりにしたとき、胸が躍る感動を覚え、これを一生の仕事にしよう! と思いました。TLPに乗船して食べたハマチの刺身の旨さは、今も忘れることができません。その後に台風があり、巨大な波と風の加重に耐えてデッキと柱の接合箇所も大丈夫だとわかったときは、心からホッといたしました。

建造中の貨物船

建造中の貨物船

モデックのFPSO構造設計でキャリアを構築
数々の制約を乗り越えベストソリューションを導く!

FPSO※4に関する主なクライアントは三井海洋開発(MODEC=以下モデック)です。まずFPSOは、船体から石油掘削をするライザーというパイプを出し、海底を掘削して原油を吸い上げます。そして原油を船内で精製してタンクへ貯蔵し、輸送用シャトルタンカーで石油を出荷する設備です。現在、西アフリカ沖、ブラジル沖、東南アジア沖など各国の洋上で稼動しています。
モデックの場合は、FPSOをゼロから新造するのでなく、中古のタンカーを購入し、船体を改造してFPSOにリニューアルします。そのため石油掘削に必須の係留設備を、新たに設けなければなりません。そうした関連の設計を私は20年やってきました。

係留設備の種類

たくさんあります。一例を上げると、タンカーの舳先に角のようなものを増設し、その上に係留装置を据えて支えるのが「アウターナル・ターレット(係留設備)システム」。タンカーの船体に大きな開口部を設け、そこへターレットを埋め込むタイプが「インターナル・ターレットシステム」になります。モデックの案件は、これらの構造形式にて当社のアイデアが大いに活用されています。

中古のタンカーを改造して係留設備を造る場合、どういう設備にするかは、船体改造にかかるコストが重要になります。その際われわれが大事にしているのは、元船の構造をできるだけ残す、という考え方です。船の部材をできるだけ残して、さらに残して改造範囲を最小限に留めることでコスト削減を図ります。そして沖合の気象条件や波や風の荷重データを鑑み、ベストな係留構造をクライアントとともに追求し、洋上で20年以上稼動できる船体に改造します。

ちなみに船体改造では、舳先辺りのデッキ「船首楼甲板」を切り取るのですが、切った部材はムダにせず、他の箇所で大切にリサイクルをしています。昨今、サスティナブル(持続可能)な社会の重要性が謳われていますが、厳しい環境に建つ洋上施設においても、環境に配慮したものづくりが実践されているのです。
船体改造は非常に制約が多く、コストや納期のマネジメントも苦労しますが、そうした困難を乗り越え、自分の工夫と知恵でクライアントの要望を最大限に再現できたときは、本当にうれしく、仕事が面白い! と感じます。時にはお客様が経験されていない構造物もあり、それを説明して「さすがだね」と言われたときは、“よっしゃ!”と一人ごちています(笑)。

据付中のジャッキアップリグ

据付中のジャッキアップリグ

この領域の可能性について

日本は島国であり、排他的経済水域は国土の約10倍もありますから、海洋の開発は必要ですし、ますます増えるものと思います。ただ海洋というと、すぐに深海や資源開発に着目しがちですが、私は一足飛びに沖合へ出る前に、世界有数の長さを誇る海岸線の有効活用を考えることが大切だと思います。例えば海岸の防波堤に波浪発電装置を設ける事業を国主導でおこなえば、自然エネルギーへの関心が高まるのではないでしょうか。また当社が得意な港湾整備によって港関連の施設や交通網が整えば、沿岸の町や漁業が活気づく可能性も広がります。カイケンの皆さんには建築と海洋、そして2つの分野が融合する領域をしっかり学んでいただき、将来は海岸線の有効活用についても考えていってほしいと期待します。

航行中の貨物船

航行中の貨物船


  • ※1 ジャッキアップリグ:接地式甲板昇降型海洋掘削装置
  • ※2 ジャケット構造物:鋼鉄製の管で立体トラス構造(基本は三角形)の脚(レグ)に杭を打ち込んで海底に固定し、レグと杭を溶接などで一体化する構造。
  • ※3 TLP:緊張係留式プラットホーム。
  • ※4 FPSO:浮体式海洋石油生産貯蔵積出設備

2016.09.01

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