赤道直下の太平洋上を睡蓮のように漂う

植物質な未来都市グリーンフロート

寺尾 浩康
寺尾 浩康(てらお ひろやす)
清水建設株式会社 設計本部 商業・複合施設設計部 グループ長

「シミズ・ドリーム」プロジェクトは
最先端技術へのチャレンジと未来環境への提言

「シミズ・ドリーム」は、世界最先端のテクノロジーをもって近未来の暮らしを明るく描き、世間が“あっ!”と驚くものを実際に建設できるレベルで提案するプロジェクトです。そして「様々な構想の検討を通じて、新しい技術へのチャレンジや将来に向けた提言を行う」、というコンセプトを掲げています。取り組みがスタートした1980年代には、大深度地下に住む構想や砂漠緑化計画を打ち出し、また地球の鉱物を原料に模造した月の砂「月土壌シミュラント」を造ったのもこの時代でした。そして時を経た2008年、再開した「シミズ・ドリーム」の第1弾が「グリーンフロート」なのです。

「グリーンフロート」の立ち上げ時には「地球環境」という大きなテーマがあり、近未来を想定し、地球の人口増加に対する解決の糸口を、赤道直下の太平洋上で見出すことを目的としました。このミッションのもとに海洋土木やエンジニアリング、設計、建築施工、技術研究所など、社内のさまざまな部署から専門技術をもったコアメンバーが集結。1人ひとりの技術と人生観が内在した、実に個性あふれるアイデアをぶつけ合うなか、「植物質」というキーワードが浮上し、環境共生型の人工浮体都市「グリーンフロート」が誕生したのです。私はチーム内の意匠設計者としてデザインを手がけ、同時に構想の骨格と目的を立案するなど、プランニングも担当しました。

「グリーンフロート」はなぜ赤道直下

赤道直下の太平洋上の場合、台風は発生しますが勢力が増大する前の段階ですから、風は穏やかで太陽の恵みも多くあります。そうしたポテンシャルの高い環境に着目し、また太平洋上に浮かべる構想は、地球上の広大で未利用な海域をいかに環境に優しく活用できるか、というチャレンジでもあったのです。

気温26℃の空中快適空間で人々が暮らし、
浅瀬の内海は生物多様性の「海の森」に

「グリーンフロート」は【浮島】と【超高層タワー】に大きく分かれています

「グリーンフロート」は、睡蓮が浮かぶイメージの人工島群で構成しました。人口都市群の中心となる【浮島(セル)】は直径3㎞の円形浮体で、その上に高さ1㎞の逆円錐形の【超高層タワー】を建てます。タワーの先端は花のように広がり、大きな開口部へ太陽光や雨水など自然の恵みがたっぷり降り注ぎ、人々はそれを受け取って暮らします。

超高層タワーの上部は気温26℃の快適空間で、住宅、オフィス、商業ゾーンを設ける構想です。タワーの中央部以下には植物工場があり、タワー下の平野部では農業・畜産業も可能ですから自給自足ができます。そして廃棄物のリサイクルシステムも備えているため、人の営みから排出されたゴミやCO2は栄養分に変わり、その栄養で野菜や米を育て、収穫したものを人が食べる、循環型自給自足リサイクルの暮らしが実現します。つまりはバイオビジネスを新産業拠点とした空、海、緑を感じるアーバンビレッジが「グリーンフロート」なのです。1セル(街区)に約5万人が暮らす「立体コンパクトシティ」ですから、すべて徒歩で移動できる理想的な空間といえるでしょう。

高層タワーの構造部材は、海水から製錬するマグネシウム合金を使用し、海上スマート工法で効率的に組み上げます。そして基礎となる浮体は、90%以上が空気のハニカム※1接合構造となり、人工地盤を構築し、浮力を利用しながら海上で施工する構想です。

特にこだわった箇所

「海の森」にある内海です。浮体の外側に、超高層タワーから流れ込む淡水と天然の海水が混ざり合う「汽水域」を設け、その先に内海を存在させました。太陽光が届く浅瀬の内海を人工的に造ることで、海藻や魚類が豊かに生息する生物多様性の海の森ができ、採貝や採藻といった親水行動も生まれます。

なお「グリーンフロート」は円形の浮島ですから、外海の強い外圧を曲線でいなし、海流に乗って大海原を浮遊します。そのため浮島の下の深海にも太陽光が届き、海底の生態系保護が可能です。しかし浮島を固定式にすると、深海へ光が届かずそこから環境破壊が発生してしまうのです。海洋建築においてもっとも重要なことは、海の環境を守り育てるような、自然環境と共生するものを提案することだと思います。この点は海洋建築工学科出身の私がもっとも大切に考えているところであり、「グリーンフロート」で追及した点でもあります。

海洋建築工学の今後の可能性

陸上における人口増加や資源の枯渇は、非常に大きな問題であり、課題解決のために、陸上より広大な海洋をどう活かしていくかは重要なテーマだと思います。ただ海洋は厳しい環境下ですから、新たなフロンティアを築くには各方面の技術開発が必要となり、大学の基礎研究が果たす役割は思います。特に日本大学の海洋建築工学科で発表されている「軟着底工法」※2は、浮体につながる基礎研究で、私は大いに期待しています。

また海洋を開発する場合、浮体自体を土地資産として評価するには、浮体の長寿命化が不可欠だと考えています。その意味においても、材料の基礎研究をはじめ、海洋の成分研究、微生物を活用したバイオテクノロジー研究、法的な整備など、さまざまなことが必要だと思います。「海洋建築」という学科をもつのは、日本大学ともう一校のみです。日大のカイケンには卒業生も大勢いますから、ぜひ各方面で海洋の研究を深め、多くの方に海洋関連の仕事に携わってほしいと思います。

条件は正しいか? 目的が継続できるか?
追求したその先にあるべき形が存在する

設計本部の仕事内容

当社が手がける建築物は、生産工場、集合住宅、銀行系オフィス、医療福祉施設、教育・文化施設などさまざまにあり、社内では建物の用途別に業務を振り分け、専門性を強化しています。私が所属する部署は、商業・複合施設やホテルなどの企画から監理までの設計業務を担当しています。最近では2012年竣工の「東京スクエアガーデン」、2015年末開業の「ららぽーと立川立飛(たちひ)」を手がけました。そして設計・施工の両方を請け負うメリットを活かして、設計から施工へBIM※3連動を推進し、建物の品質・生産性向上を目指しています。

建築の仕事で大切にしていること

私にとって「建築」とは方法論です。2004年に完成した大型商業施設ラゾーナ川崎プラザは、入札時立案から竣工まで携わった案件ですが、これには「川崎の街がもつイメージの一新」と「新たな雇用創出とその継続」という目的がありました。現在この施設には販売・物流を含む大勢の雇用が生まれ、ご家族を含む大勢の人々の暮らしがラゾーナ川崎プラザとともにあります。そして年間2500万人以上の消費が営みを支え、川崎という街を変えていくのです。

移動中の新幹線で描いたスケッチ

移動中の新幹線で描いたスケッチ

ひとつの敷地には、当然建物もひとつしか存在できませんから、自分が手がける案件がそこにあるべきか? 本当に建物を造る意味があるか? を真摯に追求し、「正しいモノ」を提示することが私の仕事だと思っています。多様な条件や目的を見据え、ベストな答えとなるべきものを、設計という1本の線で解決することが私の目標です。

こうした「ものづくり」は、社内外のスタッフとのコミュニケーションが大切であり、ここが仕事の最大の魅力だと思っています。人との交流を円滑に運ぶため、リーダーの私が心がけているのは、“打ち合わせの場で笑いを取ろう!”という朗らかな気持ちです。笑顔であればクリエイティブな発想はより広がり、人と話すことで、自分にはなかった新たな視点に気付くこともあります。多くの人と貴重な時間を共有しているわけですから、メンバーのアイデアや価値観をうまく引き出し、「シミズ・ドリーム」のような夢のある仕事をチームみんなで成し遂げたいと思っています。


  • ※1 ハニカム:六角形のユニットが集まった蜂の巣状の構造体で、強度と軽さを併せもつ。
  • ※2 軟着底工法:建物と地盤面を完全に着底させるのではなく、着底を甘くすることで、建物に作用する地震などの力を弱める工法。
  • ※3 BIM(ビム:Building Information Modeling):設計には意匠・構造・設備・電気などがあり、清水建設の場合はそれぞれの設計情報を“初期段階”から寄せ合わせて3次元データに落とし、整合性を確認する作業をおこなっている。

2016.04.01

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