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水都復活!都心の河川や運河に水流を呼び戻す「スマート・ウォーター・ シティ東京」

舟岡 德朗さん
株式会社大林組

海洋建築工学科OBの舟岡德朗さんが勤務するのは、スーパーゼネコンの㈱大林組です。同社は広報誌『季刊大林No.56』(2015年11月発行)で、2020年以降の親水環境を提案した「スマート・ウォーター・シティ東京」建設構想を発表しました。本構想の骨格、そして舟岡さんのこれまでのキャリアを聞きました。

水都復活をテーマに技術と創造力を集結!オリンピック以後の東京の水景を描く

御社の事業内容を教えてください。

大林組は生活基盤であるインフラをはじめ、都市の象徴となる建造物、さらには都市全体の未来を創造する都市開発などを手がける総合建設業であり、「建築」「土木」「開発」、そして「新領域」という4つの柱のもと、さまざまな事業に取り組んでいます。海洋建築を学ぶ皆さんの関心が高いであろう案件には、「秋田県秋田港および能代港洋上風力発電事業の開発可能性調査」や、都市型水害から街を守るための巨大水槽を造る「千住関屋ポンプ所建設工事」(東京都足立区)などがあります。また東日本大震災を契機に、世界初の「海水練りコンクリート」を開発し、2015年に第6回「ものづくり日本大賞」を獲得いたしました。そして、こうした実績に留まることなく、未来を見据えた夢のある建設の可能性を提案したのが、今回の「スマート・ウォーター・シティ東京」建設構想です。

「スマート・ウォーター・シティ東京」3つの核。

①スマートウォーターネットワーク概念図

都心の千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区に、巨大な地下貯水槽をもつ「スマート・ウォーター・ネットワーク・ビル」を建設し、ビル群の地下連結貯水槽と、それに続く大深度地下の貯水施設「ウォーターズ・リング」で、都心の雨水をムダにすることなく貯水。渇水時にはそこからビル貯水槽に揚水し、雨水を雑用水として使用する。また集中豪雨の発生が予測される際には、地下リングの雨水を事前に外濠や内濠へ排出し、大量の雨水受入体制を整える。なおウォーターズ・リングは、大林組独自の「URUP(ユーラップ)工法」※1で掘削。リング内を水陸両用車「アンフィ・モービル」が走行する。

②神田川夜景

神田川夜景

神田川夜景

現在都心の生活用水は、約20%が多摩川の取水堰から取水されている。そこで都心で必要な雑用水を、前述の「スマート・ウォーター・ネットワーク」によって雨水に切り替え、多摩川からの取水の一部は上流域の玉川上水へ流し込む。そして玉川上水から、外濠でもっとも標高が高い四谷の真田濠へ引水することで、水は高低差を利用して一気に外濠・内濠へ。水流を取り戻した都心の運河や水路には人が集い、よみがえった舟運などの水上交通網は、災害時においても大きな活躍が期待できる。

③東京ウェルカム・ゲート

水都にふさわしい海の玄関口として、東京湾の羽田空港沖に「東京ウェルカム・ゲート」を設ける。ゲートはリング状の巨大メガフロートで造られ、大型クルーズ客船が最大6艘まで着岸できるスケール。太陽光パネルや潮力発電施設を備えるほか、ホテルやショッピング施設も備え、都市型オーシャンリゾートになる。

東京ウェルカム・ゲート

東京ウェルカム・ゲート

「スマート・ウォーター・シティ東京」は、広報誌『季刊大林』で発表したそうですが、概要はどのようなものでしょうか。

東京はかつて“東洋のヴェネチア”と呼ばれるほど水が豊かな都市でしたが、時代の変遷とともにその面影は失われてしまいました。この構想では「水都復活」をテーマに2020年以後の東京の街づくりを創造し、水景や親水環境を瑞々しく描いています。企画の責任者を務める『季刊大林』の勝山里美編集長(CSR室担当部長)は、「本構想は環境・設備、防災、意匠、土木などの技術者を社内から集めてプロジェクトチームをつくり、歴史と文化をひも解きながら、ゼロベースで本構想を積み上げた。“建設の力”でこんなに夢のある新しいものが創造できるということを、今後も『季刊大林』のなかで当社のメッセージとして発信していく」と語っています。大林組のこうしたチャレンジは一社員としても非常に刺激的で、働く活力になります。上記に「スマート・ウォーター・シティ東京」建設構想の核となる3つの要素をまとめましたので、ぜひご一読ください。

竣工までの全工程をマネジメントする施工管理5つのキーワード「QCDSE」※2が重要

舟岡さんはどのようなお仕事に取り組まれてきましたか?

入社後は東北支店に配属され、ビルなどの施工管理を担当するようになりました。ゼネコン業界には「QCDSE」という5つのキーワードがあり、日本語でいえば品質・コスト・工程・安全・環境という意味になります。この5つを管理しながら、よりよい建築物を造ることがわれわれの仕事です。大規模な現場では1日で約3000人の職人が集まることもあり、また現場囲いの外側には一般歩行者も通行していますから、現場内外の安全確保は何より重要な仕事です。現場の立ち上げから竣工まで、すべての工程を、現場監督という立場でマネジメントしていくのが施工管理者の仕事と言えるでしょう。

実は新入社員時代、私は大学院でデザインなどの「計画系」を専門に研究したこともあって、いざものづくりの最前線に立つと知識不足の点があり、率直に言えばギャップを感じるときがありました。しかし目の前の仕事をひたすら覚えて行くうちに、仕事が本気で面白くなって行ったのです。体育館、プール、宗教施設、工場、幼稚園など、規模・用途・構造が異なるさまざまな現場を経験しながら、施工管理者としての自信を培っていったように思います。

東北支店での思い出深い案件は?

仙台駅前に建つ地上20階建てのオフィスビルの現場で、「2段打ち工法」を経験したことが印象深いです。これは他社も行う工法であり、端的に言えば、通常は地下基礎から地上へ順番に造っていく工事を、地下と同時進行で地上の躯体を上げて行く特殊なやり方です。メリットは工期短縮ですが、反面、作業工程が複雑化するため、少しでも気を許すと、例えば手すりが準備できていないなど、現場に不安全な状況が発生する場合があるのです。そうしたことを防ぐため、丁寧に施工計画を立て、安全確保に十分気を配りました。

また2段打ち工法は当時、東北支店も地元の職人も、また私自身も初体験でしたから、東京本店や技術研究所から構造や特殊工法が専門のベテラン勢が技術支援に入り、大林組の総合力で挑むことになったのです。最新技術を目の当たりにでき、複雑な工事を安全に遂行するやりがいも実感できた、とても学びの多い現場でした。

1/1のスケールで建物が立ち上がる!その達成感がゼネコン業界の醍醐味

JR新宿駅にできたバスタ新宿もご担当されたそうですね。

とにかく面白そうな案件でしたから、「やらせてください!」と手を挙げてプロジェクトに飛び込み、国内最大の高速バスターミナル「バスタ新宿」と、隣接する「JR新宿ミライナタワー」の入札から竣工までを担当することになりました。新宿駅は1日の平均乗降者数が世界一とされる、いわば東京の心臓部のような場所ですから、事故は絶対にあってはならず、生産技術部で施工計画などの現場後方支援をしていた私は、毎日緊張の連続でした。

国内最大の高速バスターミナル「バスタ新宿」と、隣接する「JR新宿ミライナタワー」の入札から竣工までを担当

具体的な工事としてはまず、JRの線路を超えて架かる「新宿跨線(こせん)」橋(国道20号)の耐震化を目的とした、橋の架け替えが先行してありました。そして国道20号や新宿駅のホームとつながる新駅舎を建設するため、16本の線路と8つのホームを覆う形で、線路上空に人工地盤を構築。さらに人工地盤の上にバスタ新宿が入る7階建てのビルを建設し、隣接して高さ170m・32階建ての「JR新宿ミライナタワー」を建て、これらが一体となった都市空間を2016年春、新宿駅南口に生み出すという一大プロジェクトでした。

構造的には、バスタ新宿とミライナタワーは建物としては完全に分かれていますが、建屋内で繋がる部分があり、タワーの躯体が立ち上がってこないと、バスタ新宿のビル工事も完結しないという複雑な設計でした。しかも現場の真横を常に電車が走行しているわけですから、本件に関わった4年間、私は万が一を危惧してずっとドキドキしていたような気がします。テレビのお天気カメラの中継が新宿南口だった朝は「もう映さないでくれ!」と思いながら(笑)、プロジェクトを必ず安全に成功させる!という使命感をもって仕事に向き合ってきました。この気持ちはおそらく、現場の皆さんのほうがより強かったことと思います。

実はこの案件は、大林組の先輩たちが16年にわたり携わった現場です。当社の「建築」「土木」の技術者たちが磨き上げてきた力を結集し、難工事を無事に竣工できたことは本当にうれしく、心から感動しました。すぐ近くの新宿高島屋の屋上へ何度も足を運び、新しい街の風景をしみじみと眺めたものです。

お仕事の魅力はどのようなところですか?

ある建物が1/1のスケールで出来上がって行き、その建物がある瞬間から街の中に風景のひとつとして現れることが何より楽しいです。そして自分が長い時間をかけて大切に仕上げた建築を、街の人々が使い出して街に馴染んでいく様子を見ることが達成感であり、この仕事の醍醐味だと思います。大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』でバスタ新宿が登場したとき、私はものすごくうれしい気持ちになりました。ゼネコン業界を目指す皆さんに、ぜひ!こんな感動を味わってほしいと思います。

  • ※1
    「URUP(ユーラップ)工法」:地上から発進したシールドマシンが、立坑を構築することなく、そのままトンネルを掘り進める工法。工期短縮、騒音・振動の低減、掘削土量を最小限にした CO2排出量の削減などを実現。大林組が7年かけて開発した工法である。
  • ※2
    「QCDSE」:Q=QUALITY/品質、C=COST/COST、D=DELIVERY/工程、S=SAFETY/安全、E=ENVIRONMENT/環境。
学生時代の話や、学生へのメッセージを聞きました

自分の興味や素直な好奇心を大切に、進路を選んでいくことが大切です

学生時代の思い出は?

大学1年生の夏休みに、「青春18きっぷ」を利用して、建築家・安藤忠雄さんの設計した教会を見に行ったとき、ドイツ人の建築家と出会ったのです。カタコトの英語で会話しながら、大阪や京都の著名な建築物を一緒に見て回るうちに、グローバルな建築の世界は本当に “面白い!” と思い、今こそ基礎をしっかり学ぶ時だと気付きました。振り返ってみれば、私は大学院へ進学したことも、研究室を選んだ理由も、大林組へ就職したことも、すべて純粋な「面白そうだ」という気持ちが原動力になって道を拓いていった気がします。皆さんも進路を決めるときは、学んだ専門領域にこだわって視野を狭めるのでなく、自分の興味や素直な好奇心を大切にして歩む道を選んでいくことが、後に後悔しない方法だと思います。

研究室では何を学ばれましたか?

インドネシア、フローレス島の水辺集落調査

インドネシア、フローレス島の水辺集落調査

畔柳昭雄教授の研究室では、水と関わりをもつ集落の建築的な研究をし、卒論は中国、修論はインドネシアを舞台にしました。そうした過程において、テーマを決めて計画を立て、その後に実踏調査を行い、広い視野で考察しながら結果をまとめるというトレーニングを積むことができました。こうした論理的な思考方法は、社会人になった今もとても役立っていますね。カイケンで過ごす学生時代、海洋や建築に関連した打ち込めるテーマを見つけ、先生方や先輩たち、または同級生と大いに議論をして、知識や考察を深めて行ってほしいと思います。

プロフィール

舟岡 德朗 さん(ふなおか とくろう)
株式会社大林組 海外支店 建築第一部
舟岡德朗さん

2005年日本大学大学院理工学研究科海洋建築工学専攻修了(畔柳昭雄研究室)。修士(工学)。同年、株式会社大林組に入社。東北支店、東京本店の工事事務所にて施工管理を行う。2010年11月~2017年3月、東京本店建築事業部生産技術部副課長として、国内外の建築案件の施工計画業務に携わり、営業支援、現場支援、技術開発業務を担う。2017年4月より現職。1級建築士、1級建築施工管理技士ほか。