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ミッションは資源・エネルギーの安定供給 海洋資源開発の
技術ソリューション最前線

浅沼 貴之さん
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構

昨今、メディアで目にする機会が非常に多くなり、各方面から注目を浴びている海洋の資源開発。その中心的役割を担うJOGMECで、技術ソリューション事業に携わる浅沼貴之さん(海洋建築工学科OB)に、技術開発の最前線について聞きました。

石油•天然ガス探鉱開発以外の異業種・異分野からもポテンシャルの高い技術を発掘・育成

JOGMECの職員になるまで、浅沼さんはどのようなお仕事に携わってこられたのでしょうか?

修士課程修了後、海洋や船舶関係の事業を行う会社に就職できたのですが、当時ITブームだったこともあって、システムエンジニア系の部署に配属されました。目の前の仕事に全力で取り組み、結果を出すこともできましたが、学生のころから抱いていた“海洋や船舶関係の仕事がしたい!” という思いは揺らぐことがなく、さらに幸か不幸かIT関連の部署内での私のキャリアパスが固められてしまったので、入社から2年後に大学院の博士課程へ戻る決断をしました。 その後、大学院生としてブラジルのサンパウロ大学へ1年5カ月留学し、現地の国営石油公社「ペトロブラス」の抱える技術課題解決のための研究開発に携わるチャンスを得ました。帰国後は「(独)海上技術安全研究所」にて海洋油ガス田開発、洋上備蓄、LNG(液化天然ガス)船などの研究開発や企画立案に従事。その後は「シップ・アンド・オーシャン財団」で海洋基本法フォローアップの会事務局、沖ノ鳥島維持再生計画、海洋政策学会設立などに携わり、2007年秋からJOGMECに所属しています。

現在のお仕事の内容を教えてください。

今は技術ソリューション事業に携わっています。この仕事は、NOC(産油国の国営石油会社)とIOC(国際石油会社)が抱える技術的課題(ニーズ)を、日本企業が有する優れた要素技術(シーズ)を用いて解決に導くことを目指しています。そして、課題解決を図ることで産油国等との関係を強化し、日本のプレゼンスを高め、最終的には日本の資源の安定供給につなげることがミッションです。

日本企業の有する優れた要素技術とはどういうものでしょうか。

例えばコンピューター、IT、ソフトウェア、ロボット、精密技術、ナノテクノロジー、バイオテクノロジー、環境技術などが上げられます。日本は技術立国であり、造船大国ともいわれますが、石油・天然ガスの探鉱開発やそれに関連した分野では、日本の技術はあまり使われていないのが現状です。例えばロボットでいいますと、陸上では医療・介護・災害現場などで活躍し、水中での調査ではAUV(自律型無人潜水機)なども稼働していますが、海洋の石油・天然ガス開発で用いられているロボットは主に外国製です。ハード・ソフト両面でロボットを造る高い技術力をもつ日本企業でも、資源開発業界に参入できていないケースが多々あるわけです。JOGMECの技術ソリューション事業では、異業種・異分野の企業にも広く目を向け、ポテンシャルの高い技術を発掘・育成し、実用化へつなげ、産油国等との関係強化を図ることが第一目的ですが、さらに新たなビジネスの創出や産業育成にもつなげたいと考えています。

事業イメージ

事業イメージ

技術ソリューション事業グループに所属する私は、石油・天然ガスの探鉱開発エリアの中でも海洋エリアを担当しています。特にメキシコ湾、ブラジル沖、西アフリカ沖といった「大水深域」や、北極海やオホーツク海といった「氷海域」などを見ており、「大水深開発技術」と「氷海開発技術」の2つのテーマをもって技術開発に臨んでいます。

大水深開発技術案件としては、日本のロープメーカーが今、大水深開発用の浮遊式海洋構造物を係留するロープを私たちと共同開発しており、大水深開発を推進するNOCや海洋構造物の操業会社等へ売り込みもかけています。氷海開発案件では、オホーツク海の流氷観測等の技術が日本の研究機関等にはあり、彼らがもつ氷を観測する技術や動きを予測する技術が、氷海域の探鉱開発に活かせると考え、技術開発を推進しています。JOGMECの出資・債務保証という事業でも関与しておりますが、グリーンランド島の北東部海域では、ほぼ一年中氷が張っていて、さらに氷山も流れてくる環境下ですが、ここに資源の有望なポテンシャルがあり、日本の先端技術が活用できるのではないかと考えています。

各国のNOCやIOCが抱えている技術的課題は“事業のすべて”に存在する

産油国が抱える技術的課題はどのようなものでしょうか?

石油を手に入れるといっても、何も工夫をしなければ存在する石油の量(原始埋蔵量)の10~20%の量しか取り出せないのが一般です。この取り出せる量を可採埋蔵量といい、これを増やすために水や二酸化炭素を圧入したりといった工夫(増進回収)が行われておりますが、1割でも2割でも増進回収ができれば、事業全体に与えるコストインパクトは大きなものとなります。

また、例えばブラジル沖では水深2,000~3,000mと非常に深い海域での開発が進められており、浮体式の石油プラットフォームを係留する必要がありますが、ここに新たな技術を投下して浮体の(長周期)動揺変位が削減できれば、より効率的な稼働が可能になります。現在、具体的には係留技術に着目しておりますが、大水深域に設置される浮体式プラットフォームを海底につなぎとめる係留索には、チェーンでは自分の重さに耐えられず切れてしまうため、ポリエステル素材のロープが使われています。しかし、この素材は伸びる特徴をもつため、2,000mを超える水深の場合、海洋の環境外力(波、風、流れ)によって浮体に大きな変位が生じるケースもあり、この抑制もまた新たな技術課題になるのです。

勿論、シェールガス開発のように、これまで開発できなかったものを開発できるようにする革新的な技術開発の成果もありますし、一方で日々の探鉱開発作業の中にも「最適化」という言い方もありますが、現状の技術をより向上させて最適化が進めば、増進回収や機器の稼働率は上がるわけですから、産油国の技術的課題は“事業のすべて”に存在するといえます。

技術ソリューションの仕事で浅沼さんが大事にされているのは、どのような点でしょうか?

産油国等が抱える技術的課題(ニーズ)を、日本企業等が有する要素技術(シーズ)を用いて解決に導くという話をしましたが、やはりニーズ・シーズの情報収集・分析が重要なポイントです。ニーズ・シーズは表裏一体、鶏と卵の関係なので、賛否両論ありますが、私の場合はまず、国内の企業や研究機関が現状どのような技術をもっているかを、できるだけ正確に把握することを第一に心がけています。要素技術ですから、企業の製品カタログに載っていない、まだ製品化されていない、そもそも企業秘密であるという場合もあります。そうした、企業側がこれからやろうとしていることも含めて、技術を深く正確に理解することが大切と考えています。それができれば、企業等との初回面談から有意義な話ができますし、信頼関係も築けます。そのためにも、自己の知識レベルを常に高みに置く努力が必要ですし、そこは苦労するところでもあります。

一方で、ニーズを収集・分析をするための手段のひとつとして、産油国等とのディスカッションがありますが、その際、産油国側の担当者等からより具体的なニーズを引き出すには、収集・分析したシーズ集が有効になります。国営石油公社のホームページ等にある一般的・抽象的な技術課題ではなく、その中にある重要かつ具体的なものを把握し、さらに日本側のシーズで貢献できる可能性があるものを提案していく必要があり、そのためにはこちらも手ぶらでは駄目なのです。

JOGMECの仕事は、案件1つひとつが産油国等と日本の国益に関わる仕事であり、場合によっては政府の資源外交をともなうビッグ・プロジェクトになるケースもあります。そして探鉱開発事業は、10~20年、場合によってはそれ以上の長い期間で構築されていますから、私が実際に携わっている事業の中には、現役で働いている間に産出された石油を見ることができない可能性があるものも存在します。こうした壮大な仕事に就いて率直に思うことは、国境を越えて「人と人」が良好な人間関係を築いてこそ、技術が活きてくるということです。「技術は人」とよくいわれますが、グローバルなフィールドにおいても人間関係づくりは重要であり、私自身大切にしているところです。

メタンハイドレート※1や海底熱水鉱床※2に関する研究開発も実施

海洋の資源開発やエネルギー開発の将来性について、浅沼さんはどう捉えていらっしゃいますか?

海洋資源・エネルギー開発という観点から見れば、おそらく今は海洋ブームといえるでしょう。国が定めた「海洋基本計画※3」や「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画※4」等も追い風となっており、すでにさまざまな業種の企業が、各種海洋開発業界への新規参入を検討、あるいはすでに進めている状況であり、石油探鉱開発業界も同様の機運といえます。

一方で、参入したい事業の全体像を理解することがまず基本であると考えます。先に述べた通り、石油探鉱開発事業はプロジェクト規模が巨大なので、全体像を正確に把握した上で、その企業の強みを生かすビジネスモデルを構築することが重要です。またメタンハイドレートや海底熱水鉱床、さらに自然再生エネルギーは、石油・天然ガスと比べれば少し将来の資源・エネルギーであることを理解する必要があると思います。
我々の業界も技術者不足の状況ですので、心身ともにタフなカイケン出身の学生の皆さんに、ぜひ!チャレンジしてほしいと思います。

私は先に述べた技術ソリューション事業下で業務を行っておりますが、JOGMECにはさまざまなファンクションがあり、国内の海洋資源でいえば「メタンハイドレート」や「海底熱水鉱床」を手に入れるための研究開発も実施しておりますし、三次元物理探査船『資源』や海洋資源調査船『白嶺(はくれい)』など高性能な特殊船も運行しております。国内外問わず、皆さんもJOGMECのこれからの活動に注目してください!

  • ※1
    メタンハイドレート:メタンガスと水から成る氷状の物質。
  • ※2
    海底熱水鉱床:海底から噴出する熱水に含まれる金属成分が沈殿してできたもの。
  • ※3
    「海洋基本計画」:2007年発効の「海洋基本法」の下、海洋に関する施策を集中的かつ総合的に推進するための計画。
  • ※4
    「海洋エネルギー・鉱物資源開発計画」:経済産業省によって策定された計画であり、メタンハイドレート、石油・天然ガス、海底熱水鉱床などの開発工程が定められている。
学生時代の話や、学生へのメッセージを聞きました

大学生・院生のとき、どのような研究に取り組みましたか?

学部4年から大学院修士課程の2年まで超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の研究に熱中し、頭は研究のことでいっぱいでした。自分が組んだプログラムで数値計算したものと、実験結果がピタリと一致すると楽しくてしょうがない!また一致しないとその原因をはっきりさせないと気がすまない!という感じで毎日が充実していましたね。時間を忘れて作業に没頭する毎日で、周りもみんなそういう雰囲気でしたから、あたり前のように研究室に泊まり込んでいました。

大学3年のときに増田研究室にゼミ生として入ったのですが、当時博士課程2年生の居駒先生によるかなりのスパルタ教育があり、今振り返っても相当難しいことをたくさん詰め込まれた気がします。そのおかげで、浮体運動を計算する理論やFortran という言語を用いた演習問題など、のちのち本当に役立ちました。

増田研究室に所属した時代に経験したもの全てが私の財産です。実機大の構造物を想像しながら、計測したい現象、計測機器を含めて模型実験を計画する、実施する、解析・検証する、並行して、現象を予測するための理論を構築し、プログラムを組み、計算結果と比較・検証する。それらの作業を学生時代は一作業者として、大学院生時代は取りまとめも含めて実施する…今思い出しても恵まれた環境だったと思います。そしてあの当時、まだ大学院生(博士課程)だった居駒先生の大学院生らしからぬ貫録も印象深く覚えています!(笑)

学生へメッセージをお願いします。

とにかく目の前のことを一生懸命にやってほしいと思っています。そうすればどんなことも理解が深まり、わかり始めればどんどん楽しくなります。自分の卒業研究や修士論文テーマという枠を超えて、先輩や仲間の研究も積極的に手伝い、後輩たちの面倒を見ていれば、技術は全てにつながっていることがわかり、知識にも厚みが出てきます。そして、手が届くところは全部やる!という気持ちで歩み続ければ、おのずと道は拓けてくるし、素晴らしい人や仕事と巡り合い、人生がより良い方向へと向かっていくものと思います。

研究室同期との卒業旅行にて(本人:左)

研究室同期との卒業旅行にて(本人:左)

私は研究室時代、飲み会や合宿等を担当する行事幹事を担っており、日時や場所、参加者などを取りまとめ、最後の精算まで仕切っていました。これはもはや1つのプロジェクト管理で(笑)、何ごとも受け身ではつまらないと思って、自分なりに新しいことを提案しつつ、楽しく一生懸命に取り組んでいました。結果的に、研究でも行事でも中心になることが多くなり、増田先生から「研究室の鬼軍曹」と言って頂いたのも良い思い出です(笑)。自分の人生、後悔しないためにも「目の前のことを一生懸命にやる!」声を大にして後輩の皆さんに伝えたいメッセージです。

プロフィール

浅沼 貴之 さん(あさぬま たかゆき)
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 石油開発技術本部 技術ソリューション事業グループ 技術開発チーム サブリーダー
㈱技術部開発技術課 課長代理、(併)評価部審査課 課長代理、博士(工学)
浅沼 貴之さん

1999年日本大学大学院理工学研究科海洋建築工学専攻修了。2001~2005年博士後期課程(増田/居駒研究室)。職歴:エヌケーケー総合設計㈱、(独)海上技術安全研究所、シップ・アンド・オーシャン財団を経て、2007年10月JOGMECの所属に。主に、海洋(特に大水深、氷海域)油ガス田開発技術に関する基盤研究・国際共同研究など技術開発業務、研究機関や産油国国営石油公社との包括的連携協力構築などに従事。2014年4月から技術ソリューション事業グループ。